「奉納百景‐神様にどうしても伝えたい願い」小嶋独観著を読んだ

 「奉納百景‐神様にどうしても伝えたい願い」小嶋独観著/駒草出版を読み終わったので感想を書きたいと思います。

奉納百景 -神様にどうしても伝えたい願い-

奉納百景 -神様にどうしても伝えたい願い-

  • 作者:小嶋 独観
  • 発売日: 2018/11/30
  • メディア: 単行本
 

 不思議な本に出会いました。

 表紙からご神木に打ち付けられた多数の鎌の写真〔丹生酒殿神社鎌八幡・和歌山県かつらぎ町〕です・・・なんか怖いですね。

 作者は小嶋独観さん、HP珍寺大道場で日本中の変わったお寺を紹介されている人です。

 小嶋独観さんは珍寺を巡り続けている内に信者や参拝者が奉納したモノが気になりだしたそうです。その気になった奉納物を1冊にまとめたのがこの本です。

 最初に紹介されるのが「縁結びと縁切り」、縁切り祈願に奉納される野芥縁切地蔵の男女が背中を向けて立っている絵馬がいきなり紹介されてインパクトが強いです。歯が固定されたハサミ、神木に打ち付けられた鎌なども怖い。

 「なんでも供養」・・・屠畜それた牛の鼻ぐり、身寄りの無い墓石、要らなくなった稲荷神、何でも供養されます。

 「病と奉納」・・・病気を治したいという気持ちが奉納に良く表れますし真剣さが違うと思います。おねしょ封じが梯子というのが不思議です〔ちゃんと意味があるそうです〕。

 「生贄という作法」・・・トタン板のヒトガタが怖い、志賀海神社に積まれた大量の鹿の角も凄い、3000の黒髪が一番凄い気がする。

 「生と性」・・・土製道祖心が不思議な雰囲気を醸し出しています。釘を打ち込まれた浮気封じの男性器が痛々しい。

 「死者供養の諸相」・・・長洲の精霊送りの御殿灯籠が凄い、これだけ凄いモノを作って焼いてしまうのが凄いです。

 「あの世への想像力」・・・亡くなった子供のために奉納される冥婚絵巻が哀しい〔親の愛も感じます〕。

 「意味の地平線を飛び越えた文字たち」・・・大量の文字は怖いですね。

 「稲荷信仰の裏側にあるもの」・・・鳥居、鳥居、鳥居です。

 「時代とともに変化する奉納物」・・・宝くじ当選祈願に潜水艦オンリーの奉納絵馬〔ここは一度見に行かないと駄目な気がします〕といろいろ。

 

 凄く濃い内容の1冊でした。

 やたらと「怖い」と書いてしまいましたが、それだけ奉納した人の「念」がこもっているからこその感覚だと思います〔それだけ奉納した人は真剣なのだと思います〕。それがどのような形で表されるかによって見た人の感覚が変わると思うのです。

 違う言い方をすると日本の信仰の表現形式がこれだけ豊かである事をこの本は示していると思います〔作者によると諸外国のお寺にこれほどの多様性はないと書かれています〕。

 民俗学的な記録としても凄い1冊だと思います。

 とにかく知的好奇心を刺激される1冊でした。読んで良かったです。