「きよのさんと歩く大江戸道中記」金森敦子を読み終わった

 「きよのさんと歩く大江戸道中記‐日光・江戸・伊勢・京都・新潟……六百里」金森敦子著/ちくま文庫を読み終わりました。

 

  江戸時代後半の旅行記です。

 鶴岡に住む裕福な商家の内儀・三井清野が日光・江戸・伊勢・京都・新潟と総距離600里、現在の単位だと2420kmを108日かけて旅行した記録であります。

 この本の解説を書かれている石川英輔さんが自著でよく紹介されている本なので一度読んでみようと思っていたのですが本屋でなかなか見つからず大阪の巨大書店で見つけて購入した本です〔中身を見ずに買いたいと思うほどでもなかったのも現実〕。

 裕福な商家の内儀の清野さんが旅に出たのは31歳、長女も14歳になって長男の子育ても一段落、夫である四郎兵衛にも勧められ旅立ちます〔夫も124日間、647里の旅行をしています〕。

 江戸時代もこの頃になると多くの女性も旅に出ます、でも女性一人では色々と問題があるので武吉という信頼の置ける男性、そして八郎治という荷物持ちを連れての旅です。

 この旅日記の特徴は紀行文では無く記録分と言う事、道中で見た事、あった事を率直に書いていきます。女性ならでは観察眼も働いています〔飯盛女の衣装や一般女性の髷の形など〕。

 

  さて江戸の旅での問題点と言えば「関所」であります。

 「入り鉄炮に出女」と言って関所を通る時に女性は関所手形を用意した上で細かく調べられるというのがお約束〔規則〕ですが清野さんは関所手形無しで旅をします・・・旅が出来ました。江戸も後期になると町人・百姓身分の女性が手形無しで旅をしています〔武家の女性はちゃんと手形を用意したようです〕。手形無しでの関所通過方法、すなわち「関所抜け」です。この事について清野さんの旅日記には細かく書かれています〔他の旅日記にはあまり書かれてないようです〕、これだけでも貴重ですね。江戸の法令は文面だけ見ると厳しい物が多いのですが「三日法度」と言われてあまり守られていなかったのも事実です〔だから同じ法度が何度も出された〕。

 

 次のこの日記の特徴は旅日記とともに出納帳も付いています〔出納帳の内容は全て載っていません〕、清野さん買い物しまくってます、豪快です、自分のためや周りの人のために買いまくってます。食べ物も贅沢していて良い物は日記に細かい内容が書かれています。江戸では芝居も見ています。他にも色々・・・当時の贅沢な旅というのが日記で判ります、これは大変貴重。

 

 流麗な文章で書かれた紀行文でないぶん、朗らかで自分の興味のある事をとにかく書き綴った旅日記は当時の旅や生活を知るための大変良い文章になっています。

 その旅日記を細かく解説し他の旅日記や残された文章と照らし合わせながらわかりやすく解説したこの本は大変良い本だと思います。

 面白かったです。